法定雇用率とは?簡単にわかりやすく解説!

障害雇用・法定雇用率ブログ

「うちは従業員38名だから、障害者雇用はまだ先の話だと思っていた」「2026年から『37.5人以上』が対象と聞いたが、うちも遂に義務化されるのか?」――。

最近、法定雇用率という言葉を耳にする機会が増え、このような不安や疑問を持つ中小企業の経営者様、人事・総務担当者様が急増しています。

「計算方法が複雑すぎて、パートは0.5人なのか、週10時間でもいいのか分からない」「正直、社内に任せられる『仕事がない』と現場から不満が出そうだ」。 さらには、「未達成だと罰金(納付金)だけでなく、企業名を公表されるリスクがあるのは本当か?」「助成金が色々あるが、結局どれが一番得で、どう使えばいいんだ?」といった、切実な声も多く聞かれます。

本記事では、この「法定雇用率」とは何か、その基本的な定義から、2026年にかけての段階的な引き上げの全体像、非常に複雑な計算方法、そして未達成の場合に企業が直面する重大なリスク(罰則)まで、最新の情報を基に、日本一分かりやすく、かつ専門的に解説します。

さらに、多くの中小企業が直面する「任せる仕事がない」「ノウハウがない」といった現実的な課題を乗り越えるための「業務切り出し(ジョブカービング)」の手法、具体的な「合理的配慮」の例、活用できる「助成金」の詳細、そして新しい雇用の選択肢まで、網羅的にご紹介します。

  1. 【結論】法定雇用率とは簡単にわかりやすく?
    1. 1. なぜ「義務」なのか?(障害者雇用促進法)
    2. 2. 「努力目標」との決定的な違い
    3. 2024年4月改正で「従業員40人以上」の中小企業が対象に
  2. 【2024年・2026年改正】法定雇用率 引き上げスケジュールと今後の推移
    1. 【2024年・2026年改正】最新の法定雇用率と対象企業
    2. 関連する質問:「令和7年(2025年)の法定雇用率は?
    3. 公務員や教育委員会の法定雇用率
    4. 2026年「37.5人以上」が中小企業にとって本当の「時限爆弾」である理由
  3. 自社は達成? 法定雇用率の「計算方法」と「カウント」の仕組みを簡単にわかりやすく
    1. Step 1: 【分母】「常用労働者」とは誰か?(カウント方法)
    2. Step 2: 【分子】障害者の「カウント方法」(障害者 雇用)
      1. 基本ルール
      2. 特例(1)重度の身体障害者・重度の知的障害者(ダブルカウント)
      3. 特例(2)精神障害者
    3. Step 3: 【2024年4月改正の最重要ポイント】週10時間〜20時間未満の雇用がカウント可能に
    4. 障害者雇用カウント早見表【2024年4月最新版】
    5. 【具体例】自社の実雇用率と必要人数を計算してみよう
    6. 【2026年7月以降はどうなる?(法定雇用率 2.7%)
  4. 法定雇用率が「未達成」の場合の2大ペナルティを簡単にわかりやすく
    1. ペナルティ(1)障害者雇用納付金(従業員101人以上の企業)
    2. ペナルティ(2)行政指導と「企業名の公表」(全ての対象企業、特に40人〜100人の企業)
      1. 【中小企業にとっての「真の罰則」】
    3. ダメージ:企業名公表がもたらす深刻な影響
  5. 中小企業が直面する「障害者雇用が進まない」理由を簡単にわかりやすく
    1. 壁(1)「任せる仕事がない」業務の切り出し問題
    2. 【深掘り】業務切り出し(ジョブカービング)の考え方
    3. 壁(2)「どう接すれば…」ノウハウ・リソース不足
    4. 壁(3)「採用ミスマッチ」と「早期離職」
  6. 【徹底解説】法定雇用率を達成するための「助成金」と「支援サービス」
    1. 1. まずは公的機関と助成金を活用する(自社雇用)
      1. (A)採用時に使える主な助成金
      2. (B)職場環境の整備や定着支援に使える助成金
    2. 3.新しい視点:「DX共同雇用」という第3の選択肢
      1. 先進事例:「チームシャイニー」と「シャイニーラボ」
      2. 合法的に雇用率をシェアする「事業協同組合等算定特例」の仕組み
  7. なぜ「DXダイバーシティLLP」が中小企業の3つの壁を解決するのか?
  8. まとめ:法定雇用率とは?簡単にわかりやすく解説!

【結論】法定雇用率とは簡単にわかりやすく?

まず結論から申し上げます。「法定雇用率」とは、企業や公的機関が、雇用する全従業員(常用労働者)の数に対して、一定の割合以上の障害者を雇用することを法律(障害者雇用促進法)で「義務付けた」制度のことです。

1. なぜ「義務」なのか?(障害者雇用促進法)

この制度の根拠は、その名の通り「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)です。

 この法律は、障害のある方がその能力と適性に応じた職業に就き、自立した生活を送れるよう社会全体で支えることを目的としています。国は、この目的を達成するために事業主に対して具体的な「義務」を課しているのです。

2. 「努力目標」との決定的な違い

重要なのは、これが「できれば対応してください」といった努力目標ではないという点です。これは明確な「法的義務」です。

もし法定雇用率を下回れば、その企業は「法律違反」の状態にあると見なされます。後述するように、この未達成の状態が続けば、行政指導や納付金、さらには企業名公表といったペナルティ(罰則)の対象となります。

2024年4月改正で「従業員40人以上」の中小企業が対象に

この制度が今、多くの中小企業にとって「待ったなし」の経営課題となっているのには、明確な理由があります。

2024年4月の法改正により、民間企業の法定雇用率は 2.3% から 2.5% に引き上げられました。しかし、それ以上に重要な変更点は、この義務の対象となる企業の範囲が、従来の「従業員43.5人以上」から「従業員40人以上」の事業主へと拡大されたことです。

常用労働者数が40名規模の企業であれば、まさに今、この法的義務の対象となった可能性が非常に高いのです。具体的には、従業員40人の企業の場合、「40人 × 2.5% = 1人」となり、1名の障害者を雇用する義務が新たに発生しました。

【2024年・2026年改正】法定雇用率 引き上げスケジュールと今後の推移

法定雇用率は、社会情勢や障害者の雇用状況などを踏まえ、少なくとも5年ごとに見直されることになっています。近年は一貫して引き上げの傾向が続いており、直近の改正では、企業側の準備期間も考慮し、以下のような段階的な引き上げが決定しています。

【2024年・2026年改正】最新の法定雇用率と対象企業

法定雇用率は、社会情勢や障害者の雇用状況を踏まえ、少なくとも5年ごとに見直されることになっています。近年は引き上げの傾向が続いており、直近では以下のように段階的な引き上げが決定しています。

時期民間企業の法定雇用率義務の対象となる企業(常用労働者数)
〜2024年3月2.3%43.5人以上
2024年4月〜2.5%40人以上
2026年7月〜2.7%37.5人以上

ここで最も注目すべき点は、義務対象となる企業の範囲が広がっていることです。

2024年4月からは「従業員40人」の企業が対象となり、法定雇用率2.5%に基づくと「40人 × 2.5% = 1人」となり、少なくとも1人の障害者を雇用する義務が生じます。

さらに2026年7月からは、対象が「37.5人以上」となります。これは実質的に「従業員38人や39人」の企業も対象に含まれてくることを意味します。

「うちはまだ従業員40人未満だから」と安心している企業様も、数年後には対象となる可能性が非常に高いのです。

関連する質問:「令和7年(2025年)の法定雇用率は?

上記スケジュールの通り、2024年4月から2026年6月末日までは 2.5% が適用されます。したがって、2025年(令和7年)時点での民間企業の法定雇用率は 2.5% となります。

公務員や教育委員会の法定雇用率

専門性を担保するため、公務員(国・地方公共団体)の法定雇用率も併記します。これらも民間企業と同様に、段階的に引き上げられます。

  • 国・地方公共団体: 2.8% (2024年4月〜) → 3.0% (2026年7月〜)
  • 都道府県等の教育委員会: 2.7% (2024年4月〜) → 2.9% (2026年7月〜)

また、専門的な補足として、特定の業種において雇用率の計算を緩和する「除外率制度」というものがありましたが、これもノーマライゼーション(障害の有無に関わらず誰もが等しく暮らせる社会)の観点から段階的に廃止・縮小されています。令和7年(2025年)4月にも、この除外率がさらに引き下げられる予定です。

このスケジュールを一覧表にまとめます。

時期民間企業国・地方公共団体都道府県等の教育委員会義務の対象(民間)
〜2024年3月2.3%2.6%2.5%従業員43.5人以上
2024年4月〜2.5%2.8%2.7%従業員40人以上
2026年7月〜2.7%3.0%2.9%従業員37.5人以上

出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」(PDF) 等を基に作成

2026年「37.5人以上」が中小企業にとって本当の「時限爆弾」である理由

この「37.5人以上」という数字を、単なる数字として見過ごしてはなりません。これは実務上、「常用労働者数が38人や39人」の企業が対象に含まれることを意味します。

2026年7月以降、常用労働者数が38人の企業が必要とする障害者数は、計算上「38人 × 2.7% = 1.026人」となります。雇用義務数の計算では端数は切り捨てられるルールですが、これは「1人」の雇用義務が初めて発生することを意味します。

つまり、「うちは従業員30人台だから、まだ関係ない」と安心している企業が、2026年7月1日に突如として「法律違反(法定雇用率 未達成)」の状態に陥る可能性があるのです。この「崖」の存在こそ、今から準備を始めなければならない最大の理由です。

自社は達成? 法定雇用率の「計算方法」と「カウント」の仕組みを簡単にわかりやすく

自社が法定雇用率を達成しているかどうか(=実雇用率)は、以下の計算式で確認します。

実雇用率 = 雇用している障害者数(カウント後の総数) ÷ 全常用労働者数(カウント後の総数)

この計算式は単純に見えますが、その「分母(常用労働者)」と「分子(障害者数)」の計算には、非常に複雑なルールが存在します。ここで計算を間違えると、「達成しているつもり」が「未達成」だったという事態になりかねないため、細心の注意が必要です。

Step 1: 【分母】「常用労働者」とは誰か?(カウント方法)

まず、計算の分母となる「常用労働者」を正確に把握する必要があります。これは正社員だけを指すのではありません。

  • 1人としてカウント: 週の所定労働時間が30時間以上の方(正社員、契約社員、パート・アルバイト等の名称を問わない)
  • 0.5人としてカウント: 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者の方
  • カウント対象外: 週の所定労働時間が20時間未満の方は、原則として分母の常用労働者に含まれません。(※後の特例に注意)

まずは、自社の「0.5人カウント」の人も含めた、正確な分母の総数を確定させることが第一歩です。

Step 2: 【分子】障害者の「カウント方法」(障害者 雇用)

障害の種類や労働時間によってカウントが変わるこの仕組みの詳細は「障害者雇用の算定特例制度とは」でも解説していますが、ここではその概要を説明します。。

基本ルール

  • 週30時間以上勤務の方: 1人
  • 週20時間以上30時間未満勤務の方: 0.5人

特例(1)重度の身体障害者・重度の知的障害者(ダブルカウント)

障害の程度が「重度」に該当する身体障害者・知的障害者の方は、以下のようにカウントが2倍になります。

  • 週30時間以上勤務の方: 2人
  • 週20時間以上30時間未満勤務の方: 1人

特例(2)精神障害者

精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方は、当面の間、特例が適用されます。

  • 週30時間以上勤務の方: 1人
  • 週20時間以上30時間未満勤務の方: 1人 (※0.5人ではなく「1人」としてカウント可能です)

Step 3: 【2024年4月改正の最重要ポイント】週10時間〜20時間未満の雇用がカウント可能に

今回の法改正で、中小企業が注目すべき最大の変更点が、この「短時間雇用」の算入です。

これまでカウント対象外だった「週20時間未満」の労働者が、2024年4月1日から、一定の条件で実雇用率に算入できるようになりました。

  • 対象者:
    • 重度の身体障害者
    • 重度の知的障害者
    • 精神障害者
  • カウント:
    • 上記対象者が、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満で勤務する場合、「0.5人」としてカウントできます。

この新ルールは、法定雇用率の引き上げという「ムチ」に対する、国からの「アメ」と言えます。

この新しい短時間雇用の具体的な計算方法(いつから、誰が対象か)、活用のための求人戦略や助成金について詳しく知りたい場合は、『障害者雇用は「短時間」が鍵!』の記事で徹底解説していますので、こちらをご参照ください

中小企業の最大の課題である「任せる仕事がない」問題において、フルタイムや週20時間の業務を切り出すのは困難でも、「週10時間の業務」(例:特定のデータ入力、専門的な清掃、SNSの定型投稿など)であれば、創出できる可能性は格段に上がります。

これは、国(厚生労働省)が「中小企業もはや逃れられないが、達成のためのハードルは(計算上)下げた」という明確なメッセージであり、中小企業が障害者雇用を進める上で、戦略的に活用すべき最大の改正点です。

障害者雇用カウント早見表【2024年4月最新版】

これら全ての複雑なルールを、一枚の早見表にまとめます。自社の計算にぜひご活用ください。

障害の種類週30時間以上週20時間以上30時間未満週10時間以上20時間未満
身体障害者1人0.5人0人
重度身体障害者2人1人0.5人
知的障害者1人0.5人0人
重度知的障害者2人1人0.5人
精神障害者1人1人 (特例)0.5人
出典:厚生労働省の公表資料 等を基に作成

【具体例】自社の実雇用率と必要人数を計算してみよう

では、従業員50名の中小企業(A社)を例に、実際に計算してみましょう。

A社の状況(2025年時点:法定雇用率 2.5%)

  • 【分母】常用労働者数
    • 週30時間以上(正社員・契約社員): 44人 → 44人 としてカウント
    • 週20時間以上30時間未満(パート): 12人 → 12 × 0.5 = 6人 としてカウント
    • 分母(常用労働者総数) = 44 + 6 = 50人
  • 【分子】雇用している障害者数
    • Bさん: 精神障害者手帳あり、週25時間勤務 → 特例により 1人 としてカウント
  • A社が必要な障害者雇用数 = 50人 × 2.5% = 1.25人
    • 小数点以下は切り捨てのため、**「1人」**の雇用義務があります。
  • A社の実雇用率 = 1人(分子) ÷ 50人(分母) = 2.0%

【結論】 A社は、法定で必要な「1人」の雇用は達成しています。しかし、実雇用率 2.0% は、法定雇用率 2.5% を下回っています。この状態は「未達成」であり、後述する行政指導の対象となります。

【2026年7月以降はどうなる?(法定雇用率 2.7%)

  • A社が必要な障害者雇用数 = 50人 × 2.7% = 1.35人
  • 引き続き「1人」の雇用義務ですが、実雇用率 2.0% と法定雇用率 2.7% との乖離はさらに広がります。

もしA社が「週15時間勤務の精神障害者 Cさん」を新たに雇用した場合(0.5人カウント)、分子は 1.0 + 0.5 = 1.5 人となり、実雇用率は 1.5 ÷ 50 = 3.0% となり、法定雇用率を達成できます。

計算率については本メディアの【2026年改正】障害者法定雇用率の計算と対策|エクセル・早見表・除外率を完全網羅で記載しています。

法定雇用率が「未達成」の場合の2大ペナルティを簡単にわかりやすく

「もし、法定雇用率を達成できないとどうなる?」 「罰則(ばっそく)があると聞いたが、具体的に何なのか?」

これは経営者様にとって最も重要な関心事です。法定雇用率は法律上の義務ですので、未達成の場合はペナルティが課されます。その詳細は「法定雇用率未達成の罰則とは?違反時の罰金(納付金)や企業名公表リスクを解説」でも解説していますが、ここではその核心となる2大ペナルティの概要を説明します。

ペナルティ(1)障害者雇用納付金(従業員101人以上の企業)

常用労働者数が101人以上の企業が法定雇用率を達成できなかった場合、不足している障害者1人につき、**月額50,000円(年間60万円)**の「障害者雇用納付金」を国に納付する義務が生じます。

  • 注意点1: これは「罰金(Batsu-kin)」ではなく、障害者雇用に伴う企業間の経済的負担を調整するための「納付金(Nofu-kin)」という位置づけです。
  • 注意点2: 常用労働者数が101人〜200人の企業については、当面の間の激変緩和措置として、納付金額が月額40,000円に減額されます。

例えば、常用労働者200人の企業(2024年4月〜)で、本来雇用すべき障害者が「200人 × 2.5% = 5人」のところ、実際には2人しか雇用していない場合、不足3人分として年間144万円(4万円 × 3人 × 12ヶ月)の納付金を支払う必要があります。

逆に、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には、超過1人につき月額29,000円の「障害者雇用調整金」が支給される仕組みもあります。

従業員101人以上の企業が支払う月額50,000円の義務について、詳しくは記事「障害者雇用納付金制度とは?わかりやすく目的は?100人以下計算方法・いつから・ 一人当たりを解説」で解説しています。

ペナルティ(2)行政指導と「企業名の公表」(全ての対象企業、特に40人〜100人の企業)

従業員数が40人〜100人の中小企業は、「うちは101人未満だから、納付金がないなら安心だ」と誤解してしまう可能性があります。

これが最大の落とし穴です。

中小企業にとって、金銭的な納付金以上に深刻なダメージを与えるのが、この「行政指導」と最終手段としての「企業名公表」です。

達成企業への行政指導は、事業主が毎年6月1日時点の状況をハローワークに報告する「ロクイチ報告」の結果に基づき、ハローワーク(公共職業安定所)から「障害者雇入れ計画」の作成命令が出されることから開始されます。

ロクイチ報告(障害者雇用状況報告)にはこちらの記事で詳細に記載しています。

【中小企業にとっての「真の罰則」】

  • 対象: 納付金の対象とならない従業員40人〜100人の企業であっても、あるいは納付金を支払っている101人以上の企業であっても、未達成であれば行政指導の対象となります。お金を払えば免れるわけではありません。
  • プロセス:
    1. (a) 雇入れ計画の作成命令: 未達成企業(例:実雇用率が全国平均未満で不足5人以上、または雇用数0人の企業など)に対して、ハローワーク(公共職業安定所)から「障害者雇入れ計画」を作成し、2年間で達成するよう命令が出されます。
    2. (b) 特別指導: 計画を作成しても進捗が芳しくない、怠っていると見なされた場合、厚生労働省による個別の「特別指導」が入ります。
    3. (c) 企業名の公表: 特別指導を経てもなお改善が見られないと判断された場合、最終手段として「障害者雇用促進法違反の企業」として、厚生労働省のホームページなどで企業名が公表されます。

ダメージ:企業名公表がもたらす深刻な影響

中小企業にとって、一度「法律を守らない企業」「障害者雇用に後ろ向きな企業」として公表されてしまうことのダメージは計り知れません。

その不名誉な記録はインターネット上に半永久的に残り続け、以下のような事業活動そのものに長期的な悪影響を及ぼす、最も深刻なリスクなのです。

  • 信用の失墜: 金融機関からの融資判断や、BtoB取引(特にコンプライアンスを重視する大手企業との取引)に悪影響が出ます。
  • 採用活動の困難: 求職者から「ブラック企業」「コンプライアンス意識の低い企業」と見なされ、障害者採用どころか、健常者の採用活動まで困難になります。
  • ブランドイメージの低下: BtoC企業であれば、消費者や顧客からのイメージが著しく悪化し、不買運動などにつながるリスクもゼロではありません。

以上が、法定雇用率を守れなかった場合に待ち受けるペナルティです。「自社はまだ小さいから大丈夫」ではなく、どの規模の企業でも真剣に取り組む必要があることがご理解いただけたかと思います。

中小企業が直面する「障害者雇用が進まない」理由を簡単にわかりやすく

法的な義務やリスクは理解していても、現実問題として「中小企業に障害者雇用は難しい」と感じる経営者様が多いのも事実です。「障害者雇用:企業側のデメリット・メリットと実務ポイント」については多くの議論がありますが、ここでは特に中小企業特有の「3つの大きな壁」に焦点を当てます。

壁(1)「任せる仕事がない」業務の切り出し問題

多くの中小企業では、一人の社員が複数の業務を兼務している「多能工」が一般的です。業務内容が複雑で属人的(その人でなければできない)になりがちで、「誰でもできる単純作業」というものが社内にほとんど存在しません。

障害のある方の特性に配慮した業務を新たに作り出す(切り出す)ことは、日々の業務に追われる中小企業にとって非常に困難な作業であり、「どの仕事を任せればよいか分からない」という最初の壁に突き当たります。

【深掘り】業務切り出し(ジョブカービング)の考え方

障害のある方の特性に合う部分を「切り出して」新しい仕事として再構成する手法です。

  • 例:営業事務の場合
    • 分解前: 電話応対、メール返信、見積書作成、データ入力、来客対応
    • 分解後:
      • 「データ入力」(PCスキル・集中力が高い人向け)
      • 「スキャン・ファイリング」(定型作業が得意な人向け)
      • 「来客対応・給茶」(コミュニケーションが得意な人向け)
  • まずは社内の業務を棚卸し、「その人でなければ本当にできないコア業務」と「マニュアル化すれば他の人でもできるノンコア業務」に仕分けることから始まります。

壁(2)「どう接すれば…」ノウハウ・リソース不足

障害者雇用を初めて行う企業では、「障害のある方とどうコミュニケーションを取ればよいか」「どのような配慮が必要なのか」といったノウハウが社内に全くないケースがほとんどです。

大企業のように専門のサポート部署や専任の担当者を置く経営体力はなく、結果として現場の社員が通常業務と兼務で指導・サポートを行うことになります。「現場の負担が増えるのではないか」「もしトラブルが起きたら対応できない」といった不安が、採用へのブレーキとなってしまいます。

【深掘り】「合理的配慮」とは何か?(具体例) 合理的配慮とは、障害のある方が職場で困難を感じないよう、企業側が過度な負担にならない範囲で提供する配慮のことです。これは「義務」とされています。(2024年4月より、それまでの「努力義務」から「義務」へと強化されました)

  • 物理的な配慮の例:
    • 車椅子のためのスロープ設置、通路幅の確保
    • 聴覚障害の方へ、音声情報を文字で伝える筆談器やチャットツールの導入
    • 視覚障害の方へ、拡大読書器や音声読み上げソフトの導入
  • 人的・運用的な配慮の例:
    • 精神障害の方へ、人通りの少ない静かな座席を配置する
    • 知的障害の方へ、作業手順を図や写真で示したマニュアルを作成する
    • 発達障害の方へ、「あれ」「それ」といった曖昧な指示を避け、「この書類を3部コピーして、Aさんの机に置いてください」と具体的に指示する
    • 通院のための休暇(時間休)を柔軟に認める

壁(3)「採用ミスマッチ」と「早期離職」

ハローワークや支援機関などを通じてせっかく採用しても、本人の特性や希望と、企業側が任せたい業務内容・職場環境とがミスマッチを起こし、早期に離職してしまうケースも後を絶ちません。

採用と教育にかけたコストと時間が無駄になってしまうだけでなく、「やはりうちの会社では難しい」というネガティブな経験が、次の採用へのさらなる足かせとなってしまう悪循環に陥ることもあります。

【深掘り】主な採用チャネルと特徴

  • ハローワーク(公共職業安定所):
    • メリット:無料で利用でき、障害者専門の窓口(専門援助部門)があり、助成金の相談も可能です。
    • デメリット:登録者数は多いですが、企業の希望条件と完全に一致する人材を見つけるのが難しい場合もあります。
  • 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):
    • メリット:就業だけでなく生活面も含めた一体的なサポートが強みです。実習(インターン)の調整にも強いです。
    • デメリット:採用に直結するというよりは、地域連携のハブとしての機能がメインです。
  • 障害者専門の人材紹介エージェント:
    • メリット:企業のニーズを詳細にヒアリングし、専門スキルを持つ人材や即戦力を紹介してくれます。
    • デメリット:採用時に紹介手数料(成功報酬)が発生します。
  • 特別支援学校・就労移行支援事業所:
    • メリット:新卒者や、職業訓練を受けたばかりの意欲の高い人材と出会えます。実習を通してお互いを見極められます。
    • デメリット:企業側から積極的に連携を取りにいく必要があります。

【徹底解説】法定雇用率を達成するための「助成金」と「支援サービス」

これら「3つの壁」を乗り越えるため、国は様々な助成金や支援サービスを用意しています。これらを活用しない手はありません。

1. まずは公的機関と助成金を活用する(自社雇用)

最も基本的なアプローチは、公的機関(ハローワークや高齢・障害・求職者雇用支援機構)に相談し、助成金を活用しながら自社で直接雇用する方法です。

(A)採用時に使える主な助成金

  • 特定求職者雇用開発助成金(特開金):
    • 内容:ハローワーク等の紹介で障害者を継続して雇用した場合に支給されます。最もメジャーな助成金の一つです。
    • 金額例(中小企業):
      • 重度障害者以外(週20~30時間):80万円(2年間)
      • 重度障害者・精神障害者(週30時間以上):120万円(2年間)
  • トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース):
    • 内容:障害者を原則3ヶ月の有期雇用(お試し雇用)で雇い入れ、適性や能力を見極める制度です。
    • 金額例:月額最大4万円(最長3ヶ月)。精神障害者を初めて雇用する場合は月額最大8万円(最長6ヶ月)。

(B)職場環境の整備や定着支援に使える助成金

  • 障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース – ジョブコーチ):
    • 内容:障害者の職場適応を支援する「ジョブコーチ」を配置した場合に、その費用の一部が助成されます。
    • 金額例(訪問型):支援対象者1人あたり月額3~7万円程度(支援方法による)
  • 人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース):
    • 内容:障害のある社員に対し、職業能力開発のための訓練(Off-JT)を実施した場合に、経費や賃金の一部が助成されます。
  • 障害者作業施設設置等助成金:
    • 内容:スロープ設置、手すりの取り付け、拡大読書器の導入など、合理的配慮に必要な設備・機器の導入費用の一部が助成されます。

【ポイント】 助成金は非常に種類が多く、要件も複雑です。まずは「ハローワークの専門窓口」または高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」**の各都道府県支部へ相談し、自社の状況に合う助成金はどれかを確認することが不可欠です。

3.新しい視点:「DX共同雇用」という第3の選択肢

従来の方法は、障害者雇用を「コンプライアンス(法令遵守)のためのコスト」として捉えがちでした。 しかし、多くの中小企業が抱えるもう一つの大きな経営課題、それは**「DX(デジタルトランスフォーフォーメーション)の遅れ」や「IT専門人材の不足」**です。

もし、この「障害者雇用の義務」と「DX推進の課題」を、同時に解決できるアプローチがあるとしたら、どうでしょうか。 それを実現するのが、「DXダイバーシティ」という「第3の選択肢」です。

新しい視点:「DX共同雇用」という第3の選択肢の関連記事はこちらでも記載しています。

先進事例:「チームシャイニー」と「シャイニーラボ」

この先進的なモデルを実践しているのが、先端IT特化型の就労移行支援事業所「チームシャイニー」と、NPO法人が運営する「シャイニーラボ」です。

彼らは、「障害者=単純作業」という古い固定観念を捨て、発達障害などの特性を持つ方々の中に眠る「突出した集中力」や「論理的思考力」に着目しました。そして、AI、データサイエンス、Webマーケティング(SEO対策)、プログラミングといった、まさに現代の企業が求める高度ITスキルの習得に特化した訓練を実施しています。

合法的に雇用率をシェアする「事業協同組合等算定特例」の仕組み

この「シャイニーラボ」で活躍する高度IT人材チームを、中小企業が活用し、かつ自社の法定雇用率の達成にもつなげる。それを可能にするのが、*法律(障害者雇用促進法)で正式に認められている「事業協同組合等算定特例」*という仕組みです。

【DXダイバーシティLLP(有限責任事業組合)の仕組み】

  1. 組合の設立: まず、障害者雇用を進めたい複数の中小企業が「LLP(有限責任事業組合)」という一種の組合を作ります。
  2. 共同雇用: 次に、その組合(LLP)が、「シャイニーラボ」で活躍するDX人材チームと雇用契約を結びます(=共同雇用)。
  3. 雇用率への算入: この「事業協同組合等算定特例」に基づき、組合に参加した各企業は、その出資比率などに応じて、共同雇用した障害者を自社の法定雇用率にカウントすることができるのです。

これは決して「裏技」や「法の抜け道」ではありません。厚生労働省が正式に認め、推進している「共同雇用」の仕組みを活用した、先進的なコンプライアンス戦略です。

なぜ「DXダイバーシティLLP」が中小企業の3つの壁を解決するのか?

この「DXダイバーシティLLP」の仕組みは、先ほど(セクション4)で挙げた中小企業が抱える「3つの壁」を、実に見事に解決します。

  • vs 壁1:「任せる仕事がない」
    • 【解決】 社内に単純作業を無理に「切り出す」必要は一切ありません。むしろ、社内に「専門家がいないために諦めていた高度なDX業務」——例えば、「自社サイトのSEO対策を強化したい」「顧客データを分析して営業戦略に活かしたい」といった業務を、プロの「戦力」として業務委託(発注)できます。障害者雇用が「コスト」から「DX推進力」へと変わる瞬間です。
  • vs 壁2:「ノウハウ・リソース不足」
    • 【解決】 障害のある社員は、専門スタッフが常駐する「シャイニーラボ」のサポートを受けながら働きます。企業側が、自社オフィスに受け入れ体制(物理的な設備や指導担当者)を用意したり、日々コミュニケーションの不安を感じたりする必要は一切ありません。管理上の負担をゼロにしながら、法律上の義務を果たし、業務の「成果物」だけを受け取ることができます。
  • vs 壁3:「採用ミスマッチと早期離職」
    • 【解決】 採用のミスマッチが起こりません。なぜなら、彼らは「チームシャイニー」で専門訓練を受け、自らの「強み」や「特性」を最大限に活かせる専門的な仕事に従事するからです。これは「やりがい」に直結し、高いモチベーションと定着率を生み出します。

まとめ:法定雇用率とは?簡単にわかりやすく解説!

本記事では、「法定雇用率」とは何かという基本的な定義から、2024年・2026年にかけての段階的な引き上げスケジュール、非常に複雑なカウント方法、そして未達成の場合に企業が直面する「納付金」や「企業名公表」といった重大なリスクまで、詳細に解説してきました。

この法改正の波は、特にこれまで対象外だった中小企業にとっても、はや対応が避けられない「法律上の義務」となっています。

企業担当者様がまず明日から取り組むべきことは、本記事で解説した計算方法に基づき、自社の正確な「常用労働者数(分母)」と「実雇用率(分子)」を把握することです。その上で、2026年7月の2.7%という目標値を見据え、「あと何人、いつまでに必要か」を明確にしなければなりません。

現状と目標が定まったら、必ず最寄りのハローワーク(障害者雇用専門窓口)やJEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)といった公的機関に相談してください。「自社の業種でどのような業務を任せているか」「今、どの助成金が使えるか」といった情報は、無料で得られる最も重要なリソースです。

その上で、自社のリソース(切り出せる業務、指導できる人員、かけられるコスト)に応じて、最適な解決策を選択・実行するフェーズに移ります。

選択肢は、助成金を活用した「自社単独での雇用」や、管理負担を軽減する「農園・サテライト型支援サービス」だけではありません。

本記事で紹介した、法律で認められた「事業協同組合等算定特例」を活用する**「DXダイバーシティLLP(共同雇用)」のような先進的アプローチ**は、障害者雇用という「法的義務」の達成と、「DX人材不足」という経営課題を同時に解決する「攻め」の戦略となり得ます。

障害のある方々の中には、特定の分野で驚くべき潜在能力を秘めた人材がいます。この法改正を、罰則を恐れる単なる「守り(コスト)」の課題と捉えるのではなく、その力を貴社の未来を支える「人財への投資」として捉え直すことこそが、これからの時代を生き抜く企業の成長戦略となるはずです。

まずは、自社の「実雇用率」の計算から、その第一歩を踏み出してみてください。

【参考資料】

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