「法定雇用率が2.7%へ引き上げられるが、自社だけでは採用が限界だ」 「共同雇用(Co-employment)の仕組みを使って、障害者雇用をクリアできないか?」 「法律違反になると聞いたことがあるが、本当はどうなのか?」
企業の経営者や人事担当者の間で、このような悩みや疑問が急増しています。
共同雇用とは×障害者雇用との関係
近年、企業の経営課題として急浮上しているのが、障害者雇用における「共同雇用」の活用です。2026年には法定雇用率が2.7%へ引き上げられ、中小企業であっても「障害者雇用は義務」という圧力が強まっています。しかし、採用難や業務の切り出しに苦戦し、単独での達成を諦めかけている企業も少なくありません。
そこで注目されているのが「他社と共同で雇用する」というアイデアですが、ここには大きな落とし穴と、唯一の解決策が存在します。
本来、日本において安易な共同雇用は「職業安定法違反(労働者供給事業)」になるリスクが高い危険な概念です。しかし、特例として国の認定を受けた「共同雇用スキーム(LLP活用)」であれば、合法的に複数企業で連携して障害者を雇用し、法定雇用率を達成することが可能です。
この記事では、多くの人が混同しやすい「違法な共同雇用」と「合法な共同雇用(LLP)」の違いを明確にし、中小企業の切り札となる「算定特例(LLP)」の仕組みまでを徹底解説します。
【記事の要点:2つの「共同雇用」の違い】
| 特徴 | 一般的な共同雇用 | 障害者雇用の共同雇用 (LLP) |
|---|---|---|
| 法的リスク | 原則違法 (職安法44条違反など) | 適法 (算定特例として国の認定) |
| 仕組み | 曖昧な指揮命令・責任の分散 | 国の認定を受けた共同事業体での雇用 |
| 主な目的 | 人件費削減・雇用の調整 | 法定雇用率の達成・障害者の戦力化 |
| 推奨度 | 低 (刑事罰のリスク大) | 高 (国が推進する救済策) |
共同雇用とは?日本における定義と違法性
まず、「共同雇用」という言葉が指す意味と、日本国内での取り扱いについて整理します。海外と日本では法的な前提が大きく異なります。
1-1. 海外の「Co-employment(共同雇用)」との違い
米国などで見られる「Co-employment(PEO: Professional Employer Organization)」は、人事代行会社とクライアント企業が法的に「共同の雇用主」となり、責任を分担するモデルです。しかし、日本ではこの概念がそのまま適用されるわけではありません。
1-2. 日本の原則「単一使用者の原則」
日本の労働法制(労働基準法・労働契約法)は、「一人の労働者は、一人の使用者(単一の企業)と契約する」というモデルを前提としています。 もしA社とB社が共同で一人を雇い、双方が指揮命令を行うと、「誰が責任を取るのか(指揮命令・賃金・労災)」が曖昧になるため、原則として認められていません。
1-3. 最大の壁「職業安定法第44条」の労働者供給事業
日本で最も注意すべきは、職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)です。
職業安定法 第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。 出典:e-Gov法令検索 職業安定法
形式上は共同雇用としていても、実態として「他社へ労働者を送り込んで働かせる(人貸し)」と判断されれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
なぜ今、障害者雇用で「共同雇用」が必要とされるのか?

違法リスクがあるにも関わらず、なぜ今「共同雇用」というキーワードが注目されているのでしょうか。その背景には、企業が抱える切実な課題があります。
2-1. 2026年問題:法定雇用率2.7%への引き上げ
民間企業の法定雇用率は、以下のスケジュールで急速に引き上げられています。
- 2024年4月~:2.5%
- 2026年7月~:2.7%
厚生労働省の発表によれば、対象となる企業の裾野が広がり(従業員37.5人以上へ)、これまで対象外だった中小企業も対応を迫られています。 参考:厚生労働省:障害者雇用率制度について
2-2. 単独雇用を阻む「3つの壁」
多くの中小企業が、自社単独での達成に限界を感じています。
- 採用の壁:地方拠点や人気のない職種では母集団が集まらない。
- 業務の壁:テレワークやDX化が進み、障害者に切り出せる「軽作業」が社内から消えている。
- 定着の壁:専任の指導員やジョブコーチを配置する余裕がなく、採用してもすぐに離職してしまう。
2-3. 「一社で抱え込まない」新しい選択肢へ
これらの壁を突破するために、国が推奨しているのが「複数社で連携して雇用する(共同雇用)」というアプローチです。これが、後述する「算定特例制度」です。
障害者雇用なら可能!唯一の合法的スキーム「算定特例」

障害者雇用に限っては、国が一定の要件下で「共同雇用的なスキーム」を認めています。これが「関係会社等による算定特例制度」です。
算定特例制度の全体像
特例制度を利用すると、別の事業主体で雇用している障害者を、自社の雇用率として合算(カウント)できます。
| 特例の種類 | 概要 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 1. 関係会社特例 | 親会社と特例子会社で通算 | 大企業 |
| 2. 企業グループ算定特例 | 親会社と連結子会社などで通算 | 大企業グループ |
| 3. 事業協同組合等算定特例 | 組合(LLP等)と組合員企業で通算 | 中小企業(資本関係不要) |
中小企業の切り札「LLP活用型(事業協同組合等算定特例)」
大企業向けの「特例子会社」や「グループ特例」と異なり、「事業協同組合等算定特例」は、資本関係のない全く別の中小企業同士が手を組める画期的な制度です。
特にLLP(有限責任事業組合)を活用したスキームは、組織の柔軟性が高く、現在最も注目されています。
「LLP(有限責任事業組合)」を活用した共同雇用の仕組み

では、具体的にLLPを使ってどのように共同雇用を実現するのでしょうか。
4-1. LLPスキームの基本構造
- LLPへの出資・参加:雇用率を達成したい企業がLLPの組合員になる。
- 障害者の直接雇用:LLPが障害者を直接雇用し、指導員を配置して環境を整える。
- 業務の提供:組合員企業がLLPに業務(データ入力、清掃、Web制作など)を発注する。
- 雇用率の分配:LLPで働く障害者数を、各企業の労働者数などに応じて案分し、自社の実雇用率に加算する。
4-2. 導入のメリット:リスク分散とコストダウン
特例子会社を設立するには数千万円規模の投資が必要ですが、LLPスキームであれば**「参加企業全体でコストをシェア(割り勘)」**できます。 採用コスト、設備投資、専門スタッフの人件費を分散できるため、一社あたりの負担は劇的に軽くなります。
4-3. 導入のデメリット・注意点
- 認定のハードル:厚生労働大臣の認定が必要であり、事業計画や運営体制の審査があります。
- パートナー選定:運営主体となるLLPがしっかりしたノウハウ(定着支援など)を持っているか見極める必要があります。
成功事例と進化系モデル「DXダイバーシティLLP」
最近では、単なる数合わせではない、戦略的な共同雇用モデルが登場しています。
5-1. 「代行ビジネス(農園型)」との決定的な違い
よく批判の対象となる「農園型雇用代行ビジネス」は、企業が農園を借りて障害者を雇用するものの、本業と無関係な作物を育てるだけで、やりがいやキャリア形成が課題視されることがあります。
一方、進化したLLPモデルは、「企業の本業に貢献する業務」を行うことを重視しています。
5-2. DX推進×障害者雇用のハイブリッドモデル
その代表格が「DXダイバーシティLLP」です。
- DX人材の育成:発達障害のある方の特性(高い集中力、規則性への適応、IT親和性)を活かし、ITスキルを習得した人材を育成。
- 業務の高度化:単なる軽作業ではなく、RPA構築、Webサイト更新、データクレンジングなど、企業のDXを推進する業務を受託。
- 社会的価値:企業はDX化が進み、障害者は市場価値の高いスキルが身つく「Win-Win」の関係を構築。
導入に向けて確認すべきチェックリスト
共同雇用LLPの導入を検討する際、経営者や担当者が確認すべきポイントをまとめました。
自社の課題分析
- あと何人採用が必要か?(2.5%時点/2.7%時点)
- 社内で切り出せる業務はあるか?(特にPC業務など)
- 納付金コストと採用コストの比較シミュレーション
LLPパートナーの選定基準
- 実績:厚労省の認定実績があるか。
- 支援体制:就労移行支援事業所やNPOとの連携があるか。
- 業務内容:自社の業務(DXなど)とマッチするか。
導入までのフロー
- お問い合わせ・ヒアリング
- 雇用数とコストのシミュレーション
- LLPへの出資・加入手続き
- 業務の切り出し・選定
- 運用開始・行政への報告
よくある質問(FAQ)
- Q共同雇用は違法ではないのですか?
- A
原則として、一般的な労働者の共同雇用はリスクが高いですが、**障害者雇用の「事業協同組合等算定特例(LLP)」**として国の認定を受けたものに関しては適法です。
- Q個人企業でも利用できますか?
- A
制度上は中小企業が対象ですが、LLPの組合員要件などを満たす必要があります。一般的には法人格を持つ企業同士の連携がメインとなります。
- Qどのような業務を委託できますか?
- A
LLPによって異なりますが、DX型であればデータ入力、SNS運用、動画編集、ECサイト管理などが可能です。軽作業型であれば、DM封入や清掃などが一般的です。
- Q助成金は使えますか?
- A
LLPによって異なりますが、DX型であればデータ入力、SNS運用、動画編集、ECサイト管理などが可能です。軽作業型であれば、DM封障害者雇用に関する「特定求職者雇用開発助成金」などは、直接雇用する事業主(この場合はLLP)に対して支給されるケースが一般的です。詳細はLLP運営元へ確認が必要です。
まとめ:【共同雇用×障害者雇用】違法?LLPで法定雇用率
法定雇用率2.7%時代において、全ての企業が自社単独で障害者雇用を完結させるのは、もはや非効率であり現実的ではありません。
- 安易な共同雇用は違法リスクがありますが、
- 国の制度(算定特例)を活用した「共同雇用LLP」は、経営戦略として推奨される選択肢です。
特に、**「DXダイバーシティLLP」**のように、障害者雇用を通じて社内のDX化まで推進できるモデルは、単なる法令遵守を超えた企業価値の向上につながります。まずは、自社の状況で「共同雇用」が可能か、シミュレーションから始めてみてはいかがでしょうか。



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