法定雇用率未達成の罰則とは?違反時の罰金(納付金)や企業名公表リスクを解説

障害雇用・法定雇用率ブログ

「自社の障害者雇用が法定雇用率を満たしていないが、罰則や罰金はいくらかかるのか?」 「行政指導や企業名公表のリスクは本当にあるのか?」 「従業員100人以下なら罰金はないと聞いたが、本当か?」

企業の経営層や人事ご担当者様にとって、障害者雇用促進法に基づく「法定雇用率」の遵守は、年々重要性を増す経営課題(コンプライアンス)です。2024年4月には法定雇用率が2.5%(対象:従業員40人以上)に引き上げられ、未達成企業への視線は一層厳しくなっています。

障害者雇用は法律上の「義務」であり、この義務に違反した場合、企業は深刻なペナルティ(罰則)に直面します。

それは、単に「障害者雇用納付金(事実上の罰金)」という金銭的コストがかかるだけではありません。より深刻なのは、行政指導が入り、最終的に「企業名公表」という社会的制裁を受け、企業の信用(レピュテーション)を未来にわたって毀損するリスクです。

この記事では、「法定雇用率 未達成 罰則」に関するあらゆる疑問に答えるため、違反時に企業が直面する具体的なペナルティの全貌、罰金の詳細、そして最悪の事態(企業名公表)を回避する方法について、人事部・経営層の視点から徹底的に解説します。

そもそも「法定雇用率」の基本的な仕組みや、自社が対象かどうかについて不安な方は、まずこちらの「法定雇用率とは?簡単にわかりやすく解説!」の記事で全体像をご確認ください。

法定雇用率を守らないとどうなる?未達成時に科される3つの重いペナルティ

障害者雇用促進法に違反し、法定雇用率が未達成の状態を続ける企業には、主に以下の3つの罰則(ペナルティ)が段階的かつ複合的に科されます。

  1. 【金銭的ペナルティ】障害者雇用納付金の徴収
    • 不足人数に応じて、事実上の「罰金」が継続的に発生します。
  2. 【社会的ペナルティ】行政指導と企業名公表
    • ハローワーク等による改善指導が入り、従わなければ最終的に社名を公表されます。
  3. 【手続的ペナルティ】報告義務違反による罰金
    • 雇用状況の報告を怠る、または虚偽報告を行うと刑事罰(罰金)の対象となります。

「納付金を払っていれば問題ない」という考えは大きな間違いです。納付金は「義務違反」の状態を解消するものではなく、むしろ行政指導や企業名公表といった、より深刻なリスクへの入り口に過ぎないのです。

以下で、これら3つの罰則について、対象企業や具体的な金額、プロセスを詳しく見ていきましょう。

障害者雇用納付金(法定雇用率 罰金)|金銭的ペナルティ

法定雇用率の罰則として最も広く知られているのが「障害者雇用納付金」制度です。

これは「罰金」そのものではありませんが、不足人数に応じて金銭を徴収されるため、実質的なペナルティ(罰金)として機能しています。

納付金の対象企業と「100人以下」の誤解

「障害者雇用 罰金 100人以下」というキーワードで検索する方が多いですが、ここで正確な対象範囲を理解する必要があります。

  • 納付金の徴収対象:常用労働者「101人以上」の企業
  • 納付金の対象外:常用労働者「100人以下」の企業

「うちは従業員90人だから罰金(納付金)がなくて安心だ」と考えるのは非常に危険です。 確かに納付金の支払いは免除されますが、法定雇用率の達成義務そのもの(2024年4月以降は40人以上の全企業が対象)は存在します。

100人以下の企業であっても、未達成であれば後述する「行政指導」や「企業名公表」のリスク対象であり、決してペナルティがないわけではありません。

障害者雇用 罰金 いくら?(納付金額の計算)

納付金の額は、法定雇用人数に満たない障害者1人につき、月額50,000円です。 (※2024年4月時点。なお、企業規模(101人~200人)による激変緩和措置が一部ありましたが、現在は原則50,000円です)

【計算例】 常用労働者300人の企業(法定雇用率2.5%)

  • 法定雇用人数:300人 × 2.5% = 7.5人 → 7人(※端数切り捨て)
  • 実際の雇用人数:4人
  • 不足人数:7人 – 4人 = 3人
  • 年間の納付金額(罰金): 50,000円 × 3人 × 12ヶ月 = 180万円

この納付金は、障害者雇用を達成している他社への調整金や助成金の原資となります。

つまり、未達成企業が支払うペナルティが、義務を果たしている企業の支援に使われる構図です。

この年間180万円というコストは、不足人数が解消されない限り、毎年継続して発生する「キャッシュアウト」となります。しかし、この金銭的負担以上に恐れるべきなのが、次に解説する社会的ペナルティです。

行政指導と企業名公表|社会的ペナルティ

法定雇用率未達成の罰則として、経営層が最も重く受け止めるべきリスクが、行政による介入と、最終的な「企業名公表」です。これは納付金対象外の100人以下の企業(40人以上)も含む、すべての未達成企業が対象となります。

行政指導から企業名公表に至るプロセスは、段階的に行われます。

ステップ1:障害者雇用状況の報告(ロクイチ報告)

まず、対象となる全企業(40人以上)は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する義務があります(通称「ロクイチ報告」)。 行政はこの報告に基づき、未達成企業を正確に把握します。 (参考:厚生労働省「障害者雇用状況報告書」

ステップ2:「障害者雇入れ計画」の作成命令

ロクイチ報告の結果、障害者の雇用状況が特に改善を要すると判断された企業(※)に対し、ハローワーク所長から**「障害者雇入れ計画」**(通常2年間の改善計画)の作成が命令されます。 (※「障害者雇用 行政指導 基準」:実雇用率が著しく低い、不足人数が多い、または雇用ゼロ(不足3~4人)など、複数の基準があります)

この「計画作成命令」が、行政指導の事実上のスタートです。企業は「いつまでに・何人・どのように」障害者を雇用するかの計画書を策定し、提出しなければなりません。

ステップ3:計画実施の「勧告」・「特別指導」

計画を作成したにもかかわらず、その実施が遅れていたり、改善が進まなかったりする場合、厚生労働大臣から**「計画実施の勧告」**が行われます。これは、単なる指導(命令)よりも重い、公的な「勧告」です。

そして、この「勧告」に従ってもなお改善が見られない場合、企業は**「特別指導」**の対象となります。これは企業ごとに個別に呼び出され、改善に向けた非常に厳しい指導が行われるものです。

最終措置:「企業名公表」という最大の罰則

特別指導を経てもなお、法定雇用率の未達成が続き、障害者雇用促進法違反の状態が是正されない場合、**最終的な罰則として「企業名公表」**が実施されます。

厚生労働省のウェブサイトや記者発表を通じて、「障害者雇用促進法に基づく勧告に従わなかった企業」として、正式に社名が公表されます。

「障害者雇用未達成企業 一覧」「障害者雇用 企業名公表 一覧 令和6年」といった形で検索されるように、公表された企業名はインターネット上に残り続けます。

企業名公表がもたらす経営ダメージ

  • 社会的信用の失墜: 「法律を守らない企業」「多様性(D&I)に後ろ向きな企業」というレッテルが貼られ、取引先や金融機関からの信用評価が著しく低下します。
  • 採用活動への壊滅的打撃: 特にSDGsやコンプライアンス意識の高い優秀な新卒・中途人材から「選ばれない企業」となり、採用難に拍車がかかります。
  • 株価・企業価値への影響: 上場企業であれば、ESG評価の低下を招き、投資家からの評価(株価)にも悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 既存社員の士気低下: 「自社は法令違反企業だ」という事実は、既存社員のモチベーションやロイヤリティを著しく低下させます。

企業名公表は、納付金(罰金)とは比較にならないほど、長期的かつ回復困難なダメージを企業のブランドと信用に与える、**最も重い「罰則」**と言えます。

法定雇用率未達成の罰則の罰金|手続的ペナルティ

法定雇用率の達成・未達成以前の問題として、見落とされがちな罰則があります。 それは、ステップ1で述べた**「ロクイチ報告(障害者雇用状況報告)」を怠った場合の罰則**です。

障害者雇用促進法 第86条に基づき、この報告を提出しない、または虚偽の報告を行った場合、**30万円以下の罰金(刑事罰)**が科される可能性があります。(※e-Gov法令検索)

「うちは未達成だから報告したくない」「報告をうっかり忘れていた」では済まされません。行政指導や企業名公表以前の問題として、報告義務違反だけで罰金刑が科されるリスクがあることを、人事部・経営層は認識しておく必要があります。

雇用契約違反のペナルティとの違いは?

ここで「法定雇用率 違反」と「雇用契約 違反」のペナルティの違いを整理しておきます。

  • 雇用契約違反:
    • 内容: 個々の労働者との契約(労働条件、賃金不払い等)や、労働基準法など労働法全般の違反。
    • ペナルティ: 労働基準監督署による是正勧告、または違反内容に応じた刑事罰(例:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金など)。
  • 法定雇用率違反:
    • 内容: 「障害者雇用促進法」という特定の法律に基づく、障害者雇用人数の未達成。
    • ペナルティ: 本記事で解説した「納付金」「行政指導」「企業名公表」「報告義務違反の罰金」という専用の制度。

両者は根拠となる法律もペナルティの仕組みも異なりますが、どちらも重大な「法令違反(コンプライアンス違反)」であることに変わりはありません。

法定雇用率未達成のリスク(罰則)を回避・軽減する5つの方法

これらの深刻な罰則(ペナルティ)リスクを回避し、法定雇用率を達成するためには、企業は何をすべきでしょうか。人事部・経営層が主導すべき具体的な対策を5つ紹介します。

1. 経営トップによる「全社ごと」化の宣言

障害者雇用は、人事部だけのタスクではありません。

 「コスト」ではなく「法的義務であり、企業の社会的責任(CSR)である」と経営トップが明確に位置づけ、全社的なコミットメントとして宣言することが第一歩です。SDGsやESG経営の観点からも、多様性の確保は企業価値向上の源泉となります。

2. 業務の「切り出し」と「創出」

「障害者に任せる業務がない」というのは、未達成企業で最も多く聞かれる理由です。

 しかし、既存の業務フローを詳細に見直し、データ入力、書類の電子化、備品管理、清掃・軽作業など、障害特性に配慮すれば担当可能な業務を「切り出す」努力が不可欠です。場合によっては、バックオフィス業務を集約する「シェアードサービス」のような形で、新たな業務を「創出」する視点も求められます。

3. ハローワーク以外の採用チャネルの開拓

ハローワーク(障害者雇用窓口)は基本ですが、それだけに頼っていては採用競争に勝てません。

 民間の障害者専門の人材紹介サービス、求人サイト、合同面接会、特別支援学校や就労移行支援事業所との連携など、採用チャネルを複数確保し、能動的にアプローチする必要があります。

4. 「採用」より「定着」支援体制の構築

法定雇用率は「採用した瞬間」ではなく「継続して雇用している状態」でカウントされます。

 採用してもすぐに離職してしまっては、雇用率は安定しません。採用後のサポート体制(メンター制度、定期的な面談、相談窓口の設置)や、受け入れ部署の社員に対する障害理解研修など、「定着支援」にこそリソースを割くべきです。

5. 共同雇用(事業主算定特例制度)の活用

「自社単独では、どうしても業務の切り出しや採用・定着が難しい」という中小企業にとって、有効な選択肢が「事業主算定特例制度(共同雇用)」です。

これは、複数の中小企業が共同で事業体(例:有限責任事業組合(LLP)など)を設立し、そこで障害者を雇用して各社の業務(DX推進、バックオフィス業務など)をシェアする仕組みです。

この制度を活用すれば、1社では難しい雇用も、複数社が連携することでリスクやノハウを共有しながら実現でき、各社が自社の雇用率に算定できる可能性があります。

まとめ:法定雇用率の罰則(ペナルティ)は「経営リスク」である

本記事では、法定雇用率を未達成の企業が直面する3つの罰則(ペナルティ)について詳述しました。

  1. 金銭的罰則(納付金): 101人以上の企業に、不足1人月5万円のコストが継続発生。
  2. 社会的罰則(行政指導・企業名公表): 40人以上の全未達成企業が対象。企業の信用を失墜させる最大のリスク。
  3. 手続的罰則(報告義務違反): 報告を怠れば30万円以下の罰金(刑事罰)。

「障害者雇用 罰金 100人以下」の企業であっても、納付金がないだけで、「行政指導」や「企業名公表」という、より深刻な社会的ペナルティのリスクからは逃れられません。

法定雇用率の未達成は、単なる「コンプライアンス違反」を超え、企業の信用、採用力、ブランド価値、ひいては持続可能性そのものを脅かす「経営リスク」です。

経営層と人事部は、このリスクを正確に認識し、罰則(ペナルティ)を回避するためだけの消極的な対応ではなく、多様な人材が活躍できる組織(D&I)を作るという、未来への投資として、障害者雇用に真摯に取り組むことが求められています。

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