有限責任事業組合で解決!法定雇用率の重要性

有限責任事業組合で解決!法定雇用率の重要性 障害雇用・法定雇用率ブログ

近年、多くの企業、とりわけ中小企業が直面している二大課題があります。それは「障がい者の法定雇用率の達成」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」です。

障がい者雇用は法令上の義務であり、2024年時点では民間企業に対し従業員の2.5%(40人以上企業に適用)の障がい者雇用が求められていますが、2026年7月には2.7%へと引き上げられる予定です。

法定雇用率を満たせない企業には、不足人数1人当たり月5万円の納付金(罰金)の支払い、行政指導、さらには社名公表といったペナルティも科される可能性があります。

一方で障がい者雇用は単なるコンプライアンス対応に留まらず、SDGsやESGの潮流の中で企業価値を高める経営戦略の一環として注目を集めています。

本記事では、これらの課題を同時に解決し、企業のブランドイメージ向上にもつなげる新たな手法として注目される「有限責任事業組合(LLP)」の活用について解説します。

障害者の法定雇用率達成の難しさは?

障がい者雇用率制度とは

障がい者雇用促進法により定められた法定雇用率の達成は、企業の社会的責任(CSR)として当然視されています。未達成時の罰則だけでなく、法定雇用率は企業のCSR評価やステークホルダーからの信頼にも影響します。

特にSDGs・ESGが重視される現在、障がい者雇用に積極的な企業は多様性や社会的価値創出に貢献する企業として評価され、ブランドイメージや採用競争力の向上につながります。

事実、障がい者雇用は企業の社会的責任の一環であり、積極的な取組みは顧客・取引先・将来の従業員に対する企業の魅力を高めるとされています。

単に義務を果たすだけでなく、社会課題の解決に取り組む企業こそ次世代のブランドとして支持を得る時代になりつつあります。

中小企業における障がい者雇用の現状

特に中小企業にとって法定雇用率の達成は容易ではありません。

その最大の理由の一つが「社内に適した業務がない」ことです。厚生労働省の調査によれば、障がい者を雇用していない企業の実に7割以上が「自社に障がい者に任せられる適切な仕事がない」ことを理由に挙げています。

関連記事:令和5年度障害者雇用実態調査の結果(厚生労働省)

この壁により、「雇用したくても何を任せればよいかわからない」という企業が少なくありません。また、「採用が難しい」「職場環境の整備が不十分」などの課題も重なり、中小企業が単独で法定雇用率を満たすのは困難な状況が続いています。

その結果、法定雇用率未達による罰則リスクや、CSR未達成によるネガティブな企業イメージの懸念が存在します。

中小企業が抱える障がい者雇用の課題

なぜ中小企業で障がい者雇用の達成が難しいのでしょうか。その背景には主に二つのハードルが指摘されています。一つは**「障がい者を採用したくても適任者を見つけにくい」こと、もう一つは「採用しても任せる業務がない(社内に適切な職務を作れない)」ことです。

 特に小規模事業者では、社内の業務量自体が限られており、障がいのある方に担ってもらう専任ポジションを確保することが難しい場合が少なくありません。

 また、受け入れ態勢(職場のバリアフリー化や配慮、人事担当者のノウハウ不足など)への不安から、採用に踏み切れないケースもあります。

 結果として、「雇いたい気持ちはあっても現実には雇用できない」という状況に陥りがちです。そのような中小企業のジレンマを解消するために登場したのが、次に述べる複数企業による共同雇用スキーム**です。

※事業組合方式(LLP)×DX支援の全体像: 中小企業が**有限責任事業組合(LLP)**という共同事業体に業務を委託し、そこで組織された障がい者のDX支援チームを複数社で共同活用する仕組みを示した概念図です。

事業組合(LLP)が障がい者を雇用して各社のDX関連業務を請け負い、参加企業はその成果物やノウハウを自社の業務改善に役立てます。このモデルにより、参加企業は業務アウトソーシングによるDX推進と、自社の障がい者雇用率向上の双方でメリットを享受できるようになります。

LLPと算定特例制度の概要

有限責任事業組合(LLP)は、2005年に施行された新しい事業組合制度で、企業同士のジョイントベンチャーや専門人材による共同事業を促進するために創設されました。

 法人格を持たない組織形態ですが、出資者全員が有限責任であること、内部運営の自由度が高いこと(契約内容の柔軟性)、利益が構成員課税となることなどが特徴です。

 このLLPを含む事業協同組合等を活用した障がい者の共同雇用については、厚生労働省が**「算定特例制度」を設けています。

参考記事:

 これは、中小企業が共同で事業組合を作り一定の要件を満たして認定を受けた場合に、その組合と組合員企業の実雇用率を合算して計算できる制度です。

 つまり、一社では障がい者雇用が難しい場合でも、複数社で組合を通じて共同雇用すればグループ全体で法定雇用率をクリアできる仕組みということになります。

 各社は組合に業務を発注する形で障がい者の働く機会を共同創出し、その障がい者を各社の雇用率算定上カウントすることが認められるわけです。(厚生労働省

 従来、親会社と子会社で障がい者雇用を通算する「特例子会社制度」は広く知られていましたが、中小企業同士でもこの算定特例を活用すればグループ方式で障がい者雇用義務を履行できる**のです。

LLP共同雇用による同時解決アプローチ

このようなLLPと算定特例制度を活用すると、中小企業の抱える課題を“一挙に解決”できる可能性があります。

実際にIT人材育成を手掛けるチームシャイニー社は、事業組合(LLP)×共同雇用×障がい者DX人材育成という新しいアプローチで、中小企業のDX推進と障がい者雇用の両立モデルを提唱しています。具体的には、意欲と適性のある障がい者を専門の研修機関(シャイニーラボ)で高度なDXスキルを習得させ、彼らによる**「障がい者DX人材チーム」を結成。そのチームに対して参加企業がLLPを通じて業務を委託(共同雇用)することで、各社はDX推進の即戦力を確保しながら法定雇用率の算定対象にもできるという仕組みです。

 この方法なら、「障がい者を直接採用しにくい**」「任せる業務がない」という壁があった企業でも、自社内に雇用枠を設けることなく外部の専門チームを活用して雇用率に貢献でき、DX人材不足も同時に補えるわけで。

まさに**“採用”でも“外注”でもない第三の選択肢**として、障がい者雇用とDX推進の両立を可能にする道筋が拓けてきたと言えるでしょう。

LLP×共同雇用によるDXと障がい者雇用の同時解決モデル

法定雇用率の確実な達成とコンプライアンス向上

LLPを通じた障がい者の共同雇用に参加する最大のメリットは、各企業が法定雇用率をクリアしやすくなることです。算定特例制度により組合全体で雇用率を合算できるため、組合員企業は必ずしも自社で直接障がい者を雇用しなくても法定雇用率を達成可能です。

特にこれまで雇用率未達だった企業にとっては、一人では困難だった障がい者雇用の義務を共同の力で果たすことができます。

結果として、納付金の負担や行政からの指導リスクを回避でき、企業コンプライアンスの強化につながります。また複数社でより多くの障がい者雇用に挑戦することで、法律上の義務を超えた社会貢献も可能になります

障がい者雇用の促進とノウハウ蓄積

LLPに参加すること自体が障がい者雇用の促進に寄与します。組合を通じて業務発注する形でも、結果的に障がい者の雇用機会を生み出し支える点では社会的意義が大きいです。

さらに実際に障がい者とチームで仕事を進めることで、各企業は障がい者と働く環境整備や対応のノウハウを蓄積できます。

これにより将来的に自社で障がい者を直接雇用する際の体制づくりにもつながります。つまりLLP参加は、自社内にダイバーシティ&インクルージョンを進める予行的な役割も果たし、社内の意識改革や職場改善のきっかけにもなります。

DX課題の解決と業務効率化への貢献

もう一つの大きなメリットは、LLPに所属する優秀なDX人材チームによる業務支援を受けられることです。

述べられているように、組合にはデータ分析やRPA、自動化ツール活用などのスキルを持つスタッフが在籍しており、各社の課題に応じてコンサルティングからシステム実装・運用までデジタル技術で業務改善を支援してくれます。

中小企業単独では確保しにくい専門性の高いIT人材を、LLP経由でシェアリングできるイメージです。これにより、例えば「紙業務のデジタル化」「定型作業のRPA自動化」「データの見える化による経営改善」といったDXプロジェクトを小さく速くスタートし成果を出すことが可能になります。

DX推進が進めば業務効率が向上し、生産性アップや新たなビジネスチャンスの創出にもつながるでしょう。つまり、LLP参加企業は障がい者雇用率を上げながら、自社の競争力強化にも寄与するDX効果を得られるのです。

企業ブランディングへの好影響

障がい者雇用の取り組みを積極的に行うことは、企業のブランドイメージ向上にも直結します。最近では消費者や投資家が企業の社会的責任や倫理性に注目する傾向が強まっており、障がい者を受け入れ活躍できる場を提供することは「人を大切にする企業」という好印象につながります。

法定雇用率をしっかり達成し、それを上回る雇用創出に挑戦する姿勢は、社会から必要とされる企業としての信頼感を高めるでしょう。またこの取り組みは国連のSDGs(持続可能な開発目標)の理念(「働きがいも経済成長も」や「人や国の不平等をなくそう」等)にも合致しており、ダイバーシティ経営を重視する企業としてESG評価の面でもプラスに働きます。

さらに社外だけでなく社内的にも、「障がい者雇用に真剣に取り組んでいる会社」に勤めていることは社員の誇りやエンゲージメント向上につながるとの指摘もあります。

このように、LLPを活用した障がい者雇用への前向きな取り組みは企業ブランディングを強化し、人材採用力や取引先からの評価向上といった相乗効果をもたらします。

実例紹介:DXダイバーシティ有限責任事業組合の取り組み

上述したLLPスキームの先行事例として注目されるのが、DXダイバーシティ有限責任事業組合です。DXダイバーシティLLPは、障がい者雇用を増やしたい複数の中小企業と、発達障がい者支援の専門NPO法人が協力して2024年11月に設立したLLPです。

この組合は厚労省の算定特例制度を活用し、参加企業全体で障がい者雇用率を合算することでグループ全体として法定雇用率を達成することを目指しています。

さらに法律上の義務を満たすだけでなく、法定雇用率を超える障がい者雇用の拡大にも挑戦しつつ、デジタル技術を通じた業務改善(DX化)を推進するという独自の方針を掲げています。

そのために、組合には高度なITスキルを持つ障がい者の技術スタッフチームが所属しており、参加企業からの依頼に応じてデータ活用や業務自動化などDXプロジェクトを支援しています。

実際、組合の受託主体であるDXダイバーシティLLPがプロジェクト全体を統括し、チームシャイニーの「シャイニーラボ」で育成された障がい者DX人材がチームを編成して業務を遂行、成果物やノウハウは組合員企業が自社運用に展開するといった連携体制が敷かれています。

こうしたモデルは、中小企業のDX課題と障がい者雇用問題を同時に解決する新たなエコシステムとして評価されており、実際に日経BP社のビジネス誌『日経トップリーダー』2025年11月号でも「埋もれていた人材(障がい者)が中小企業のDXを支援する仕組み」として図解付きで詳しく紹介されました。

社会的にも注目を集めるこの事例は、LLPという器を使って障がい者が企業の即戦力となり価値を発揮することを証明しつつあり、障がい者雇用と企業価値向上の相乗効果を示す成功例と言えるでしょう。

まとめ:障がい者雇用と企業価値向上を両立する新たな戦略

障がい者の法定雇用率未達成という課題に対し、有限責任事業組合(LLP)を活用した共同雇用スキームは、中小企業にとって有望なソリューションとなっています。単に法律上の義務を果たすだけでなく、DX推進による業務革新や企業ブランディング強化といった経営上のメリットを同時にもたらす点で、従来にない価値を持つ取り組みです。実際、障がい者雇用は「義務を守る」ことから一歩進んで、企業が社会に対してどんな姿勢を示すかというメッセージでもあります。

LLPの仕組みを通じてそのメッセージを積極的に発信し、社会課題の解決と自社の成長を両立させている企業は、結果的に高い信頼と評価を得るでしょう。

法定雇用率の達成と企業ブランド向上の相乗効果を求める中小企業の皆様は、ぜひこの新しいアプローチを一つの戦略として検討してみてはいかがでしょうか。障がい者雇用の「義務」を「チャンス」に変えるLLP活用が、これからの時代の持続可能な企業経営を支える鍵となるかもしれません。

コメント